フォロンのポスター「ELZENVELD VZW」 |
1986年のGalerij BBL以来二度目となるフォロンのベルギーのアントウエルペン(アントワープ)での個展は、20世紀も押し迫った1999年にエルゼンフェルト文化センターで開催されました。ベルギーは言語の違いによってフラマン語を公用語とする北部のフランデルン地域とフランス語公用語とする南部のワロン地域にほぼ二分されますが、加工工業を中核とする産業を発展させてきたフランデレン地域とベルギーの主力産業としてその経済を支えてきた石炭産業の斜陽化によって経済基盤が弱体化したワロン地域の経済格差が大きくなるにつれて、言語を違いが両者の関係に軋轢を生じさせ、ベルギーは1993年から連邦制に移行し、実質的に二つの政府が存在しています。フランス語圏であるワロン地域出身のフォロンもフランデレン地域での活動は積極的には行なっていないように見えます。そのフォロンの大規模な個展が、フラマン語圏最大の都市であり、中世から交易によって栄えたベルギー第二の都市アントウエルペンの公共施設で開催され、しかも300ページを超える大部の図録が刊行されたたことは、特筆に値します。
フォロンがこの個展を告知するために制作したポスターには、大(800x530mm)小(500x330mm)二種類のサイズがあり、そのイメージは図録の表紙にも使われています。ポスターのイメージとしては何やら怪しげな雰囲気を漂わす作品ですが、フォロンは見知らぬ人物の歩く姿を思い浮かべている帽子の男を描いています。この見知らぬ人物とは実は自分の頭の中に住むもう一人の自分で、自分とは何で、何処へ行こうとしているのか分からない不安のようなものが画面に示されているようにも見えます。人は自分のことを理解しているつもりでいても、本当の自分を客観的に見つめることはできません。むしろ現実の自分ではない自分の願望が創り出した幻影を追い求めていることの方が多いかもしれません。そして何かの拍子に思ってもいない自分(実は本当の自分)が現われ驚くことがあります。また一方で、自分にも気付かないでいる隠れた資質とか才能があったりして、何かの切っ掛けでそれが開花し、全く別の姿に変身する可能性も秘めています。