フォロンのイラストレーション「The Eden Express」 |
アメリカの雑誌プレイボーイ誌(Playboy Magazine)の1975年11月号に掲載された『The Eden Express: a young man emerges from the beautiful sixties and finds himself going insane, locked in a padded cell, hallucinating a mile a minute memoir』の筆者マーク・ヴォネガット(Mark Vonnegut, 1947-)は、「スローターハウス5」の作者として知られるカート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut, 1922年-2007)の実子で、その名はヴォネガットがアメリカの聖人だと考えていたマーク・トウェインから取られたとのこと。1969年にスワスモア大学(Swarthmore College )を卒業し、ガールフレンドと大学の友人たちとコミューンを作るためにフォルクスワーゲン・ビートルでブリティッシュ・コロンビアの大自然へと向かいます。そこをエデンの園とみなして理想の生活を志すも、統合失調症(schizophrenia)(注1)を発病し、二度の入院を経験します。その後病は治癒するのですが、物語では、自らの病と青春を振り返り、同じ病気の友人への慰めと励ましの言葉で締めくくっています。プレイボーイ誌が初出となるこの自伝的物語はその年に、『The Eden Express: A Memoir of Insanity』(注2)という題で、ニューヨークのプレーガー出版(Praeger Publishers)からハードカバーで出版されています。マーク・ヴォネガットはその後小児科医になっています。
フォロンがプレイボーイ誌から依頼されて描いたイラストレーションは、この本を読んでいないので定かではありませんが、著者の薬物(メスカリン)による幻視体験あるいは統合失調症を発病してからの妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)を視覚化したものなのでしょうか、甲殻類のように多くの外肢を持つ甲虫が、その周りを這い回る、翅を付けてはいるものの、1973年にオリベッティ社から刊行されたカフカの「変身」の挿絵に登場する虫を思い出させる姿をした子供(?)をあやしているように見えます。
ニューヨークタイムはこの本を次のように記しています:
Mark Vonnegut’s depiction of his descent into, and eventual emergence from, mental illness. As a recent college graduate, self-avowed hippie, and son of a counterculture hero, Vonnegut begins to experience increasingly delusional thinking, suicidal thoughts, and physical incapacity. In February 1971 he is committed to a psychiatric hospital… (an) honest, thoughtful, and moving account of the illness of schizophrenia. Required reading for those who want to understand insanity from the inside.
注:
1:2002年までは”精神分裂症”と訳されていたスキツォフリーニア(schizophrenia)ですが、このスキツォフリーニアという耳慣れない言葉を聞くと、同名の曲を収録したジャズ演奏家ウェイン・ショーターのアルバム(BLP-4297,1967年3月録音)が思い出されます。
2:『The Eden Express:A Memoir of Insanity』の邦訳は、「エデン特急―ヒッピーと狂気の記録」(衣更着信・笠原嘉訳 みすず書房 1979年)として刊行されています。