フォロンの表紙絵「Graphis No.130, 1967」 |
フォロンは1967年、スイスのデザイン誌「グラフィス(Graphis)」(1944年創刊)の依頼で、自身の近作特集が組まれた第130号の表紙をデザインしています。フォロンはここでは、実物のプラスチック製の円形迷路を目の代わりに使っていて、人物の目が捉えた三次元的な視覚画像が、頭の中で図像として再現されています。ただそれは目の網膜が受けた視覚情報をそのまま再現したものではなく、フォロン自身のヴィジョンとして示されることにより、新たなリアリティーを創出しています。迷路と言えば、フォロンより二つ年下のドイツの画家兼版画家フリードリヒ・メクセペル(Friedrich Meckseper、1936-)が思い出されますが、メクセペルが「Labyrinth」という題で初めて円形の迷路をモチーフに銅版画を制作したのが1966年です。何か繋がりがあるのでしょうか。
雑誌の題名と号数もデザインに含まれているのですが、フォロンがレタリングしたゼロの数字が、他の数字の書体とは異なり、ひとつの円として表現されており、そこにも究極の形としての円に対するフォロンの想いのようなものが感じられます。
この作品で描かれた、詩人や小説家、思想家たちの肖像写真にしばし見られる、頬杖をついて何かを想う姿は、この後のフォロンの作品に何度も取り上げられることになるのですが、それは色彩や身近なモチーフといった感覚的に捉えられるものから思考へと見る者を誘う役割を果たしており、社会的規範や道徳、倫理観に囚われない、人間の自由な発想力の可能性を示しているように思われます。それはメルロ・ポンティが『目と精神』の中で「私の眼なざしは存在の輪光のなかをさまようように画像のなかをさまよい、私は絵を見るというよりはむしろ、絵に従って、絵とともに見ている」(メルロ・ポンティ「眼と精神」、みすず書房、 p.261)と語っているのですが、フォロンの作品に関して言うと、「...私は絵を見るというよりはむしろ、絵に従って、絵とともに考えている」ということになるのかもしれません。