フォロンの挿絵本「Antologia del Campiello 1987」 |
イタリアの文学賞のひとつである「カンピエッロ文学賞(Premio Letterario Campiello)」は1962年、イタリア文学界の発展と読者層の開拓に貢献しようとするヴェネツィアの企業家たちによって創設されました。イタリア語で出版された小説の中から専門家・批評家が候補作を推薦、最終候補作を5作までに絞った後、300名の一般読者が審査員となり、最終受賞作を決定します。一般審査員はイタリア全土から選ばれた幅広い年齢層および職業層から構成されており、審査員として参加できるのは一度限りとなっています。同時に最終候補に残った作品を収録した“カンピエッロ選集(Antologia del Campiello )”が1200部限定で刊行され、前書きと賞の歴史の後に審査を務めた300人全員の氏名と住所が掲載されます。それに別刷りで印刷されたイタリアを始めとする現代作家たちの挿絵が色を添えます。挿絵は初期の頃は銅版画やリトグラフといった版画の技法によるものでしたが、後にオフセット印刷によるものに変っています。フォロンは1987年の挿絵を依頼され、水彩による5点の挿絵を描いています。挿絵は、別刷りで本文に差し込まれているので、抜き取って額装することも可能です。
そのフォロンですが、1987年は多忙を極めた年で、南米アルゼンチンのブエノスアイレスやイタリア、ベルギーなど11ヶ所で展覧会を開催しています。そんな中、前に取り上げた四種類の“再生紙”をテーマとするポスターやこの本の挿絵の制作を行なっています。これらの作品には、日本の中世から近世にかけて盛んに制作された屏風絵に見られるに雲を効果的に用いた空間表現にも通じる方法論を用いた背景の処理が行なわれています。屏風絵に見られる雲の間から景観を眺め見るという視点は、フォロンの場合は、創造主の視点、自由を象徴する鳥の視点というものを想像させますし、物語(空想)と現実との境を無くす働きがあります。
フォロンの挿絵、1987年制作:[フォーマット]300x253mm,[技法]Offset,[限定]1200,[刷り]Grafiche《La Press》