フォロンの銅版画「Cerf-volant」 |
イタリアのミラノからスイスのジュネーヴに移転したアリス出版(Alice Éditions, Genève)は1976年、フォロンと当時フォロンの仕事を手伝っていたパオラ・ギリンゲッリ(Paola Ghiringhelli, 1940-2012)、そしてフォロンの友人で、フォロンと同様、凧に情熱を注ぐ料理写真家のジャン=ルイ・ブロック=レネ(Jean-Louis Bloch-Lainé)との共著で、凧の歴史や風俗、絵画、日本の凧を含む、世界各地で揚げられている“凧”の写真を収録した「Cerfs-volants」(注1)を出版します。その限定版に添えられたのが、“凧”をモチーフとするこの銅版画です。青と赤のコントラストを特徴とするフォロンの画面とは対照的に、その調和的な色調がフォロンのもうひとつの魅力を引き出している茶系統の渋めの色調によって画面が構成されています。この銅版画にはもとになったデッサン(注1)があります。人物と凧の大きさの比率がデッサンの方では現実的ですが、銅版画では凧の存在が大きくクローズアップされ、物としての凧から、大きな目を持ち、鳥が如く大空から地上を俯瞰する目撃者(Le Regard du Témoin=Eyewitness)としての視点をもつ存在へと変容しています。それと関連するのかもしれませんが、フォロンは1972年、鳥のように自由に大空を飛びたいという想いを“凧”という形で具現化した《Un homme volant》をデザイン、制作しており、この凧の本にも空を舞う姿を捉えた写真が掲載されています(注2)。
残念ながら、この凧の《オブジェ》が市場に現れることは滅多にありませんが、10年以上前に一度、筒状のケースに収納されたものがフランスのネットオークションに現れたことがあります。140ユーロで売りに出されましたが、皆が購入を躊躇しているうちに終了してしまい、その後暫くして、今度は大幅に値を下げてオークションに掛けられました。すると、最初の価格を遥かに上回る値で落札されたのです。オークションは冷静な判断力を競争心に変えてしまう不思議な魔力を持っているようです。
注:
1.
2.
3.