フォロンのシルクスクリーン・ポスター「Foultitude」 |
1969年に制作されたこのポスター、フォロン自選のポスター集「Affiches de Folon」(Alice Editions, 1978)の冒頭で紹介され、1985年と1994年に行なわれた日本での大きな展覧会にも出品されているので、ずっと手に入れたいと思っていましたが、購入金額が折り合わず、なかなか縁を結ぶことができませんでした。今年もだめかなと思っていたところ、前にポスターを購入したところから美品があるというので、年の終わりになって、ようやく手に入れることができました。現在、パリから輸送中です。年内の到着を期待しているのですが、荷物が込み合う時期なので、年を跨いでしまうかもしれません。そこで、一足早く、先方からの写真を使って紹介したいと思います。
1953年から1985年までパリの装飾美術館(Musée des Arts Décoratifs, Paris)の館長を務めたフランソワ・マティ (François Mathey, 1917-1993)は、フォロンの作品を評し、「フォロンはアール・グラフィックという新しい表現方式を創り出した」と述べています。そのフランソワ・マティ が1969年、“群衆”(それを表す言葉として、マティはCrowdtitudeという造語を作っています)をテーマとする展覧会の告知用ポスターのデザインをフォロンに依頼して作られたのが、このポスターです。ポスターの題名は、ともに群衆(大衆)を意味する"Foule"(注1) と "Multitude"という二つの言葉を繋げて出来た、多数を意味する"Foultitude"で、群衆(注2)のような不特定多数の集合体を表す言葉のようです。それを視覚言語化したものが、このポスターということになります。フォロンは、言葉の元となった群衆を、彼の代名詞とも言える帽子の男が整然と立ち並ぶ姿に描いており、黒を背景に、フォロンが好んで使う青(上)から赤(下)へと序々に変わっていく様が、グラデーションを用いて表現されています。
このポスターの刷りを担当したのは、パリに工房を構えるシルクスクリーンの刷り師、ジャック・マルケで、1970年代初頭までフォロンのポスターやシルクスクリーンの版画作品の刷りを手掛け、出版にも参加しています。重要なのは、このポスターがグラデーションを用いたフォロン最初のポスターであるということです。刷りに関しては、フォロン自身もいろいろ試したかったのでしょう、このポスターには、後のポスター制作の前例となる、幾つものカラーバリエーションが存在しています。フォロンのシルクスクリーン・ポスターの摺刷数は凡そ1000部ぐらいなので、一回のインク盛りで200~250部の刷りが可能だとすると、四種類ないし五種類のカラーバリエーションがあるのではないかと思われます。これまでに三種類ほど画像を目にしていますが、現物を全種類揃えるのは難しそうです。
注:
1.フォロンは1979年に、何かに突き動かされているような不気味な姿を見せて迫ってくる“群衆”の姿を描いた、"Foule I" と"Foule II"というふたつの色違いの銅版画作品を制作しています。
2.日本大百科全書(ニッポニカ、小学館) によれば(以下引用)
《群集とは不特定多数の人々が共通の動因や関心、注目対象のもとに、比較的限定された地域空間に一時的に密集し、情動的に行動をともにする未組織の集合体(無組織集団)をいう。》とあります。
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2017年12月31日追記:
到着を待ち侘びていたポスター、12月30日の晩に配達していただいたようなのですが、生憎留守にしており、今日の昼過ぎに不在連絡表を見つけた時には既に遅し、郵便局の受け取り時間を過ぎてしまっており、年内に手にすることができませんでした。年明け早々に受け取り、写真を撮影、ブログにアップしたいと思います。
あと数時間で年が明けます。2018年がフォロン・ファンにとって稔り多き年になりますよう心よりお祈り申し上げます。