フォロンのポスター「Galerie Berggruen」 |
1979年の春と年末から翌年にかけて行なわれた二つの個展のポスターを並べて見てみると、画面構成の仕方が瓜二つであることに気付きます。ともに画面中央よりやや下当たりに頂点がくるように弓なりの地平線を取り、その地平線の中心部と垂直に交わり、あたかも弓と矢のような関係になるようにモチーフを配した構図で、モチーフの上には作家名、下には画廊名が、水彩画を基にしたポスターでは初めてとなる手書きでレタリングされています。また、フォロンと画廊の綴りに含まれるA,B,O,Rのような線で囲まれた空間を持つ文字には、赤、緑、青のいずれかが嵌め込まれ、作家と画廊の名を告知する手段としての言葉であるばかりでなく、フォロンと画廊、フォロンとモチーフ、画廊とモチーフとの関連性を示す役割も担っています。
パリの大学通り(Rue de l‘Universite)にあるGalerie Berggruenでの個展告知のポスター「Galerie Berggruen」では、帽子の男のシルエットに、その男が歩く都会(パリ)の通りの一角をダブルイメージとして組み込むという、シュルレアリスムの画家ダリやマグリットが用いたトロンプルイユ手法が使われ、一方、ブリュッセルの美しい眺望通り(Rue de Belle-Vue)にあるGalerie Charles Kriwinでの個展のポスター「Galerie Charles Kriwin」では、たくさんの小さな花が生けられた白い花瓶の形を、大地に聳え立つ塔と見立てるという、隠喩表現が用いられています。この二点のポスターでは、定番とも言えるモチーフと同時共存している、もうひとつの“見えないイメージ”が即ち画廊のある街を象徴するイメージとなっているのです。
手書き文字への着色によって画面全体の色価のバランスを取るというデザイン的な目的は達成されましたが、では、フォロンの期待通りにポスターが理解されたのとか言うと、疑問が残ります。それでという訳ではないでしょうが、この意図をもっと明確するために、フォロンは二年後の1981年、ジャズ・ギタリストのスティーヴ・カーン(Steve Khan)へのオマージュとなる「Steve Kahn」を制作しています。このポスターでは、絵の具による着色から、色の付いたガラス球を画面にコラージュする方法に変えることで、より一層言葉とモチーフとの関連性を際立たせようとしています。