フォロンのカレンダー「Calendar for Olivetti」 |
フォロンは、イタリアの事務機器メーカー、オリベッティ社の依頼で、ポスターや挿絵本の仕事以外にも、カレンダーや日記帳、マグカップ、時計、ジグソーパズルなどのノベルティ・グッズのデザインも引き受けています。1971年用のカレンダー(1970年制作)もその内のひとつで、同社の顧客、販売店、取引先などに配られました。
カレンダーは、フォロンによる水彩画と暦部分が別々に印刷され、支持体となる厚紙のボードに貼り付けられています。裏側には壁掛け用の紙製吊り輪が付いています。フォロンは、依頼内容を端的に伝えるための手法として、頭部を作品テーマのメタファーとする人物を幾度も作り出していますが、今回は、12個の引き出しのあるチェストを頭部に持つ青色の人物です。画面の中の小さな引き出しには実際に取っ手が付いており、それをひっぱると、上から順番に1月、2月、3月...と1971年のカレンダーが現われる仕掛けになっています。
用が済んで、引き出しを戻すと、カレンダーであることが分からなくなるので、壁吊り具付きのフォロン作品として飾っておくことが出来ます。しかしながら、もともとフォロンの作品であるという印象のほうが強く、受け取った人の中には暫く暦部分を見つけることが出来なかった人もいるかもしれません。
カレンダーの観賞と暦の機能というふたつ役割がそれぞれの部分に独立しているものでも、画面上に混在するものでもなく、暦の機能を独立させながらも自己の作品の要素として取り込み、フォロン作品として成立させているのです。この作品の背後にあるのは、人間が人間によって作り出された日付や時間に支配されて、自然にある季節感や日日の時間の移り変わりを体感できずに過さねばならない、機能や効率が優先する現代社会の歪みを幾分でも解きほぐしてくれるユーモアなのです。
フォロンの描きだす人物やその背景は、何かを特定するためのものではなく、誰にでもそして何処にでも当てはまる鏡のようなもので、そこの世界の住人になれば、自分=フォロンの想い、夢、思想を発見できる一種の写像関係を構築するためのメタファーとして機能しているのです。
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2022年3月22日追記:
古いデータが見つかりました。このカレンダーの原画です。2009年4月21日にイタリア ミラノのサザビーズ(Sotheby's Milan)で、ジョルジオ・ソアヴィのコレクションのひとつとして、競売「Giorgio Soavi Collezionista」(Sale No.MI0307, Lot No.63)に掛けられました。落札金額は €10,000(=1,267,400円)でした。