フォロンのオリジナル・オフセット(3)「Officine grafiche Elli & Pagani」 |
原画を用いないオフセット印刷で作られた三番目のポスター「Officine grafiche Elli & Pagani」は、このポスターを印刷したミラノの印刷所、Elli & Paganiの自社広告用のものです。フォロン作品の定番とも言える帽子の男をモチーフにしていますが、見る側の目は帽子の男よりも、画面の周りをぐるりと取り囲んでいる小さな画像のほうに惹き寄せられます。どれも緩やかにカーブする地平線と空に浮かぶ太陽を描いた景色です。この小さな画像はフォロンがよく用いる窓枠と同じように、画面の中にもうひとつ、フォロンの夢や想像からなる架空の世界を作り出し、見る側がその窓を通して眺めたり、その世界の中に入っていく仕掛けとなっています。と同時に、ポスターの画面をモチーフとタイポグラフィとの二つに分割し、なおかつその一部をモチーフに取り込むことで、画面全体をひとつのイメージに統合し、単純なモチーフから成る画面により多くの意味を与える役割を担っています。
小さな画像は、縦に16枚、横に13枚並んでいます、横の列はどれも同じ色調ですが、縦の列では、空の色が、緑色から青色、オレンジ色、そして茜色へと順に変化していく様をグラデーションで表現しています。それは、夜が明ける前から日が沈むまでの、一日の空の色の変化を時間毎に示したもののようで、16時間というのは、人が起きている時間の長さを示しているのかもしれません。一方、横の列は、ある状態が持続する時間の長さ、例えば日照時間を示しているのではないでしょうか。モノクロの線描画以外は原画を用いないフォロンのオリジナル・オフセットポスターは、通常のオフセット・ポスターとは違い、色面は二種類のインクをローラで混ぜ合わせて作り出しますが、このポスターでは、Elli & Paganiの熟達した技量の高さを示すために、あえて16の独立した小さな画像を連ねて緑色から茜色までの自然で滑らかな諧調を作り出して見せているのではないかと思われます。結果、その枠取りが幾分目障りとなっているのは否めませんが。