フォロンのポスター「Galerie Charles Kriwin」 |
1973年、フォロンは、生涯の代表作となるカフカの「変身」の挿絵を手掛けたり、最初の水彩画作品集「木は死んだ」を出版する一方で、第12回サンパウロ・ヴィエンナーレに出品し、大賞を受賞、その名が国際的に知られるようになります。また出身地ブリュッセルでも、ヴォケール画廊(Galerie Vokaer)で版画展、シャルル・クリウィン画廊(Galerie Charles Kriwin)では水彩画展と、二つの個展を開催しています。クリウィン画廊での展覧会を告知するポスターには、1970年に制作された水彩画「Autre printemps(もうひとつの春)」が使われています。フォロンによると、アトリエの前に立っている実を付けない一本の林檎の木を題材にしており、木の枝に付いている沢山の眼は、いつも何か付けないかと期待して見ているフォロン自身の何年もの想いを反映しているとのこと。そして、赤い実のように見える眼が、思わぬ驚きをもたらすのだそうです。
私たちには、大まかな形からでも、知覚から得た情報を記憶と照合することで対象を正しく認識する能力(類推)がありますが、対象となるものが、円や四角、三角のような見慣れた形体の場合には逆に、記憶の対象となるものが広範囲になってしまい、知覚された対象の特定の属性に引っぱられたり、対象を自らの記憶に適合させようとして、対象の観察を妨げることがあります。繰り返し行なわれる知覚体験が記憶を形成し、集積された記憶に共通のするもので括る抽象化を通して、対象を意味内容として捉える概念化が行なわれ、記憶を連関させる思考が形成されますが、そのような記憶の総体が逆に知覚に干渉し、対象にさまざまな記憶を投影することになります。フォロンは、この知覚と記憶の関係を基に文脈を構成し、誰でもすぐに了解できるような図像によって、見る側を作品に込められた思いに導こうとしています。このイメージは、「L'Automne(秋)」という、1984年に制作されたタペストリーにも転用されています。1985年から86年にかけて日本各地を巡回した「フォロン展」に出品されていたので、ご覧になった方もいるのではないでしょうか。
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2019年12月25日追記。 画像の追加: