フォロンのポスター「Dancers」 |
1975年に俳優のポール・ニューマン(Paul Newman, 1925-2008)と夫人のジョアン・ウッドワード(Joanne Woodward, 1930-)によって設立された舞踏カンパニー,“ダンサーズ(Dancers)”は、自らもダンサーであるデニス・ウェイン(Dennis Wayne)が主宰、常に才能あるダンサーによって、バレーからモダン・ダンスまで幅広いレパートリーを提供しているとのこと。水彩によるニュアンスに富んだ色彩と幻想的な光景が印象的なこのポスターは、“ダンサーズ”が1977年にニューヨークを代表する非営利劇場であるラウンドアバウト・シアター・カンパニー(Roundabout Theartre Company)で公演を行なった際の広告ポスターで、ウェインがフォロンにデザインを依頼したもの。フォロンが自選のポスターアルバム「Affiches de Folon」に附した解説によると、フォロンはこのポスターのデザインを依頼される数ヶ月前、イタリアのスポレートで行なわれる芸術祭に参加していたウェインから“ダンサーズ”の舞台稽古(注:1)に招待され、作品が創り上げられていく現場に立ち会う機会を得ています。そしてその体験を通し、ダンスというものがまさに直感と正確さの組み合わせに他ならないと理解した、と語っています。このポスターでは、ウェインの振り付けの下で微塵の狂いもなく踊るダンサーを、雲間から現われた“創造者の手”によって操られる二本の脚によって表現しています。
1977年から翌年にかけて、フォロンはこのポスターを含め計5点のポスターをアリス出版(Alice Editions)から出版していますが、いずれも水彩画を原画とするものです。これらのポスターでフォロンは水彩絵の具の滲みを活かし、数少ない色数で繊細で複雑な諧調を生み出しており、さらにグラフィックアートとしての完成度をさらに高めるため、フォロンの水彩画の印刷では定評のあるミラノのElli & Paganiで印刷を行なっています。フォロンのポスター制作において、オフセット印刷は、単なる原画の複製手段に留まらず、他の版画の技法と同様、ポスターという文字を含めてのトータルな表現手段における、グラフィックな表現力を高めるための印刷技法として捉えられています。これらのポスターは、フォロンのオフセットポスターを代表する作品として、日本で行なわれた二度の回顧展はもとより、大規模な展覧会には必ずといってもいいくらい出品されています。題名は以下の通りです:
1977:Alice Editions(avec Milton Glaser)
1977:Institute of Contemporary Art
1977:Chiesa di Santa Eufemia
1977:Dancers
1978:Musée de l'affiche(Hommage à Cassandre)
注:
1.フォロンは同年、イタリアのスポレートで毎年6月下旬から7月上旬にかけて行なわれるこの芸術祭の第20回の公式ポスターのデザインを担当しており、同地のサンタ・エウフェーミア教会(Chiesa di Santa Eufemia, Spolete)で個展も開催していることから、この芸術祭に参加していたウェインとの出会いが生まれたのではないかと思われます。