フォロンの招待状「Musee Olympique」 |
フォロンの契約画廊としてこのブログでも何度か取り上げているアリス・ポリ画廊(Galerie Alice Pauli)はスイスのローザンヌという風光明媚な都市にありますが、そのローザンヌには国際オリンピック委員会(IOC)の本部が置かれていて、オリンピックにまつわる様々な資料が保存・展示しているオリンピック美術館が設置されています。フォロンは1996年、この美術館で旅をテーマとする展覧会「Voyages/Travels」を開いており、その際、告知用のポスター、招待状、そして図録の表紙絵をデザインしています。ポスターと招待状の表紙には同じイメージ(水彩画)が使われ、時間のアナロジーとして、自然界の太陽と人が創りだした時計を二重像で描いています。よく“光陰矢の如し(Time flies like an arrow)”と言いますが、フォロンは時計の二つ針を空を飛ぶ矢として描くことで、流れ行く時間を視覚化しています。オリンピック競技、それは正に人が時間という見えない壁に挑み、それを如何に乗り越えるかを競う競技のようであり、生きると言う行為を最小の単位によって表現することによって、人生を限りなく永遠に近づけようとする人間の行為でもあるようで、有限の中に生きる人間存在を象徴するものでもあるようです。一方、図録の表紙には、この展覧会のタイトルにあるように、フォロン後期作品群の主要な主題である“旅”のアナロジーとして、航行する船が使われています。デサイン的には、ポスターと招待状、それに図録にも、画面の縁には切手のミシン目(目打ち)のような意匠が施されており、遠くにいる人に送られるもの、ある意味では“旅”を想起させる要素になっているように思われます。