フォロンのポスター「Galerie Alphonse Chave」 |
画像1:フォロンのポスター、1977年制作:[作品名]Galerie Alphonse Chave、[サイズ]656x497mm[技法]リトグラフ、[刷り]Pierre Chave,Vence
1977年の8月から9月にかけてフランスのヴァンスにあるアルフォンス・シャーヴ画廊(Galerie Alphonse Chave)で行なわれた個展の告知用に制作されたポスター。併設する工房(Pierre Chave)で刷りが行なわれています。Galerie Alphonse Chaveは、その名のとおり、アルフォンス・シャーヴによって1947年に創設された画廊で、ジャン・デュビュッフェを始めとするアール・ブリュット(Art Brut)の作家の作品を取り扱っており、マックス・エルンストの契約画廊でもありました。フォロンは前に一度Pierre Chaveでリトグラフの版画作品(1973年に出版された画集「La mort d’un arbre」のデラックス版に挿入された作品)を制作しているので、このポスターは二作目の作品ということになります。
フォロンの水彩画をもとにして作られるポスターは通常、オフセット印刷で刷られるのですが、このポスターはリトグラフで刷られています。水彩絵の具の滲みから生みだされるニュアンスに富んだ色調を再現するために、面を砂目状の色の粒子の集合に分解し、青、赤、黄の三色を使い、それら色の粒子の組み合わせで多彩な色調を、また、粒子の多い少ないで濃淡を作り出しています。
しかしながら、写真製版、機械刷り全盛の時代に、オフセット印刷を使わず、新印象派のスーラが用いたポアンティレと呼ばれる点描技法にまで遡る、時代錯誤としか思えないやり方を敢えて行なっているのは何故かと言えば、実は、これは、前回のリトグラフを制作した際に浮かび上がってきた問題-リトグラフを使った画面ではフォロンの作品に欠かすことのできない透明感を作り出せないという難点-を解決するために採られた方法ではないかと考えられます。砂目状の色の粒子の集合から成る面のなかに一定の割合で隙間(無色の部分)を与えると、それが光の透過性を生み出し、画面に軽やかさと透明感を作り出せるのではないか、そして、それが巧くいけば、リトグラフ使った版画作品も銅板画やシルクスクリーンと同じ様に作ることができると目論んでいたのではないでしょうか。
結果はある意味成功といえます。皮肉なことに、現在このポスターは、オフセット印刷によるものと見なされているのですから。
このポスターのモチーフとなっている、夜明けの太陽が瞳になっている目は、あるインタヴューのなかで、「ところで、あなたの作品に目がよく出てきますが、あなたの視線というわけですか」と言う質問に、「むしろ未知の創造者の視線だと思います。毎朝夜明け前、地球を見渡す視線、そしてそれは私がすきな形でもあります...」と答えているフォロンの言葉をそのまま視覚化したものです。
編集・追記(2008年12月29日):
この展覧会には1973年から77年にかけて制作された水彩画20点と銅版画18点の合わせて38点が出品されています。画廊の創始者であるアルフォンス・シャーヴは1975年6月13日に亡くなっているため、その跡を継いだピエール・シャーヴがこの展覧会をプロデュースしています。図録は水彩画13点をカラー図版で紹介、巻末に出品リストが付いています。
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再追記(2015年9月5日):
本文中の“フォロンの水彩画をもとにして作られるポスターは通常、オフセット印刷で刷られるのですが、このポスターはリトグラフで刷られています。水彩絵の具の滲みから生みだされるニュアンスに富んだ色調を再現するために、面を砂目状の色の粒子の集合に分解し、青、赤、黄の三色を使い、それら色の粒子の組み合わせで多彩な色調を、また、粒子の多い少ないで濃淡を作り出しています”との記述は、19世紀後半に図鑑や本の挿絵などに使われたクロモリトグラフ(Chromolithograph)という、後にオフセット印刷に取って代わられる青、赤、黄の三色混合印刷で、点描で色を付ける多色刷石版画の手法に当てはまります。