フォロンの挿絵本「Declaration universelle des droits de l'homme」 |
1948年の国連総会で採択された世界人権宣言40周年にあたる1988年、アムネスティ・インターナショナルのベルギー支部は同国出身のフォロンに、誰もが一度は耳にはしても、あらたまって読むことのない「世界人権宣言」の条文への挿絵を依頼、一冊の挿絵本として発行しました。序文に添えられた挿絵には、釜を手に人間の命を奪いに来る死神が、人間の犯す悪の表象として描かれているのですが、誰もが一人の人間として平等に生まれたはずなのに、肌の色、宗教、言語、文化の違いによって差別や迫害、逮捕、投獄され、拷問を受け、場合によっては死に追いやられてしまう、当事者ではどうすることも出来ない現実が世界には数多く存在しています。そのような人間の悪に無力さを覚える人たちにとって、世界人権宣言は―人間が人間として平等に生きるための、救命ブイであり、希望であり、行動へのきっかけであり―人間の悪に立ち向かう、たった一冊の本である、と云うフォロンの挿絵を通し、改めて人間の権利の重みを感じない訳にはいきません。
本文は、国連の公用語として使われているフランス語、アラビア語、スペイン語、中国語、英語、ロシア語の6カ国語で併記されています。ソフトカバー、123ページ。印刷には温もりや手触り感のあるクリーム色のコットン紙が使われています。フォロンが描いた挿絵は、20世紀に人間が犯してきた幾つも大罪を思い起こさせますが、フォロンの「ユーモアとは、悲劇を悲劇として語ることを拒否する」との言葉通り、悲観的でも厭世的ではなく、やはり人間の未来に希望を持ち続けることを忘れない人間愛を感じさせてくれる作品になっています。表紙を始め、幾つかの挿絵がポスターにも使われているので、目にされた方もいるのではないかと思います。尚、この挿絵本をポケットサイズしたものも同時に発行されています。
60周年にあたる2008年には、日本を含む8ヶ国のアムネスティ・インターナショナルが、この挿絵本を人権パスポートに仕立てものを発行しています。日本語版は、谷川俊太郎氏が条文を翻訳しており、アムネスティ・インターナショナル ジャパンから入手することができます。