フォロン「Faire-part de demenagement de Jeanloup Sieff」 |
フォロンが自身初となる挿絵本「Organiser pour vivre」を出版したのは1966年のことですが、その年、私家版の小冊子タイプの画集も二冊制作・出版しています。一冊は友人の写真家ジャンルー・シーフ(Jeanloup Sieff, 1933-2000)の“引越し通知”、もう一冊は、その数ヶ月後に作られた自身の“引越し通知”です。この二冊は全く同じ内容のもので、引越しをテーマとする十点のデッサンからなる画集です。最後のデッサンの余白に新しい住所が記されています。フォロン自身の引越し通知の方は、まだ未見。翌1967年にはオリベッティ社の文化部にいたジョルジオ・ソアヴィの着想をもとに制作した画集「Le Message」が出版されます。
日本でも人気の写真家ジャンルー・シーフは1933年パリ生まれ。1950年代にはマグナムフォトに所属し、世界各地でルポルタージュ写真を撮っていますが、シーフ自身はマグナムフォトの主流であった《決定的瞬間》に代表される切り取られた一瞬ではなく、経過とその持続性への共感を持っていたようです。マグナムフォトを離れ、フリーになった後、1961年から1965年までニューヨークに在住し、ハーパーズバザーやグラマー、ヨーロッパヴォーグのファッション関係の仕事を行なっています。1966年にパリに戻り、自身のスタジオを開設しますが、その引越し通知を友人のフォロンに依頼したという訳です。
そのことをシーフ自身は1990年に刊行された「Demain Le Temps Sera Plus Vieux : Jeanloup Sieff 1950-1990 」の中で次のように語っています:
"Je me souviens qu'à chacun de mes retours à Paris j'avais commencé à visiter tous les ateliers en vente, de Montmartre à Montparnasse, jusqu'au jour où une annonce en indiqua un dans le 17e, quartier qui ne m'attirait pas trop. Mais quand j'allai le vister en compagnie de mon ami Folon et de sa femme Colette, ce fut le coup de foudre. Il était tel que je l'avais rêvé : trop grand, clair et baroque. Et c'est moi qui l'achetai, Folon était encore plus fauché que moi ! C'est ainsi que je rentrai définitivement à Paris en 1966."
この写真集はシーフの仕事の集大成といえるもので、1990年にパリの出版社、コントルジュール(Contrejour)から出版されました。その序文をフォロンが執筆していることから、二人の友情関係が継続していたことを伺い知ることが出来ます。この写真集の英語版タイトルは「Jeanloup Sieff 1950-1990: Time Will Pass Like Rain」で、フランス語版、英語版併せて8000部が限定出版されています。日本語版も1991年に朝日新聞社から刊行されています。絶版になった後、1996年にドイツの出版社、Evergreen/Benedikt Taschen Verlag, Kolnから再販され、2005年にはTaschen Verlagから復刻版がそれぞれ刊行されています。2005年の復刻版は、出版元のContrejourが廃業した後にその版権を安く入手したTaschen Verlagが、3kg以上もあるこの大冊の写真集をあっと驚くような低価格で発売、写真ファンを喜ばせましたが、一方、オリジナル版の付加価値を一時引き下げる現象を起こし、写真集コレクターを悲しませることになりました。しかしながら、近年写真集の作品的価値が高まり、オリジナル版と再販・復刻版の住み分けが行なわれるようになってきているようです。どっちも同じ内容でしょ、とおっしゃる方には、何ら意味のないことではありますが。
残念ながら、“ジャンルー・シーフの引越し通知”は未だ手元にありません、内容についての情報が無かった為、折角あった入手の機会を逃してしまいました。なので、図版はある業者が持っている物をお借りしています。