フォロンの展覧会図録「Folon 25 Ans d'Affiches」 |
1984年にパリのラ・デファンスで1963年から1983年までの全てのポスターを集めて行なわれた回顧展『Folon 20 Ans d'Affiches』から五年後の1989年、トゥールーズ市のポスター美術館で再びポスターの回顧展『Folon 25 Ans d'Affiches』が開催されました。図録はその時刊行されたもの。実は、トゥールーズ市での展覧会に先立ち、フィンランドのラハティ・ポスター美術館でも大規模なポスターの回顧展が開催されており、ポスターに焦点を当てた展覧会としてはこれが三度目の展覧会となります。図録の表紙には告知用ポスターと同じイメージが使われているのですが、このポスターは評判が良くて、初版の1000部に続き、会期末に出された第二版1000部も売り切れてしまうほどでした。当然のことながら図録も完売となり、古書店を通じてもなかなか入手することができませんでしたが、インターネットのおかげで、ようやく一部入手することができました。ページ数や掲載されているポスターの数はそれほど多くありませんが、厚手の上質紙を使い、カラー図版の発色も良いので、フォロンのポスターファンなら手にしたい一冊になるかと思います。
表紙に使われたイメージは、1979年のパリ ベルクグリュン画廊での個展の図録にも通じる舞台をモチーフとした作品で、オレンジを中心とする暖色系のヴィヴィッドな色調は、別名「バラ色の都市』と呼ばれ、焼いたテラコッタ・レンガを建築資材として用いた建築的外観を特徴とする展覧会の舞台、トゥールーズを象徴しています。舞台の幕が引かれると、フォロンの作品世界を象徴するような様々色の玉が空に浮かぶ幻想的な空間が現われ、展覧会の開幕をイメージさせます。幕の部分に互い違いに引かれた色の付いた細い棒は、従来からある陰影法としのクロスハッチングであるよりも、ジャスパー・ジョーンズが用いたフラットな色面としてのクロスハッチングを想い起こさせます。そこでは色彩が物質的なものであることをより即物的に示すものとして画面内に導入されており、そこにある絵画的主題も実は平面的な物質の集合に過ぎなく、極論を言えば絵画は物質以外の何物でもないという宣言と覚悟の表明であったようですが、フォロンのそれは色彩は光であるという印象派的な認識から出発し、光は粒子であり、直進するという光の性質そのものが視覚を形成していることを示そうとしているのではないでしょうか。とすれば、画面にはこの二つの性質がそれぞれ描き出されていることになります。
展覧会の告知用に作られたポスター。ポスターとしての形式を具えているものの、余白をたっぷり取り、レタリングとタイポグラフィーをクロスハッチングと同色とすることで背景に溶け込ませるなど、単なる告知用のポスターではない、作品的な意味合いを強く感じさせるポスターになっています。