フォロン最初の画集「Esprit Linear」(2) |
前回の記事に関連して、今から十数年前に手に入れたフォロンの画集「Esprint Linear」を再び取り上げ手みたいと思います。題名は“線の機知”というような意味でしょうか。当時は1965年にオリベッティ社がパリ支店開設の際に刊行した小さな画集「Le Message」をフォロンの最初の画集としていることが多く、この画集についての記述はどこにもありませんでした。そのため、ブログのタイトルも「フォロン最初の画集(!?)」として取り上げましたが、今では文句無しにフォロンの最初の画集として認知されています。“くすっと笑える”ユーモア画集として、1963年にドイツ フランクフルトにある出版社(Verlag Bärmeier und Nikel, Frankfurt am Main)から刊行されたものです。収録されているデッサンはもとはシュルレアリスムや劇作家で詩人のアルフレッド・ジャリの造語であるパタフィジック(形而超学)の影響を受けたとされるフランスの文芸雑誌『ビザール(Bizarre)』、中でも、デッサンの特集号となった「Dessins inavouables」と「Supplément aux dessins inavouables」に掲載されたものです。当時、ドイツではフォロンの存在は知られていなかった筈(?)ですので、この二つの出版社の間に何らかの接点があったのではないかと思われます。
雑誌『ビザール』は1953年、ジャーナリストで文筆家のミシェル・ラクロス(Michel Laclos, 1926-2013)が創刊、日本ではジャン=クロード・フォレ(Jean-Claude Forest, 1930-1998)のエロティックなSFコミック『バーバレラ(Barbarella)の出版者として知られている、フランスの出版人エリック・ロスフェルド(Éric Losfeld, 1922-1979)が編集を担当しましたが、たった二号で休刊。1955年、「サド公爵の生涯」の作者であり、またフォロンの最初の個展を奇しくも画集の刊行と同じ1963年に開催した書店「ル・パリミュグル(Le Palimugre)」の創設者でもあった出版人のジャン=ジャック・ボーヴェール(Jean-Jacques Pauvert, 1926-2014)によって引き継がれます。そのポーヴェールによれば、上記の特集号に掲載されたデッサンは現代的な表現に対する試みを省みないフランスの既成の出版社が掲載を断わったものを集めたと語っています。
フォロンは画集の刊行に合わせて、デッサンを描き直しているのですが、そのことは画中に書き込まれた文字がフランス語からドイツ語に書き換えられていることからも判ります(画像9参照)。画集はハードカバー仕様ですが、一般人向けの低価格なものであったことから、上質紙が使われておらず、経年による“ヤケ”が目立つものが多いのが難点でしょうか。ともあれ、フォロンの1960年代、70年代の創作活動の原点ともいえるアイデアが詰まった画集であることは確かです。