フォロンの表紙絵「TIME」 |
全世界で数百万部の発行部数を誇るニュース誌「TIME」の1970年3月23日号の表紙を飾ったフォロンのデッサン。その年の3月、フォロンは、当時毎日新聞社の事業部特派員であった美術評論家の松原俊朗氏のインタヴューを受け、その中で、「わたしはマスコミのために仕事をしたことはありません。あくまで自分のために制作しています。しかし、マスコミは今世紀の驚異的な手段です。わたしの作品、作品のなかに描かれた、たとえば人像も、人の目にふれ、見た人の反応があってはじめて存在することになると思います。自分の表現したいことをマスコミによって一時に何百万の人々にコミュニケ(伝える)できます。タイム誌の表紙を描けば、その絵は千万人以上の人々の目にふれます。画廊や美術館の展覧会をもってしては、一生かかっても、これほど多くの人々に語りかけることはできません。ただマスコミの仕事には期日や課題やいろいろ制約があります。まったく自由な自分の表現を社会に訴えるためには、展覧会の効果も十分認めております」と語っています。ここに出てくるタイム誌の表紙とは、まさに3月23日号の、この表紙絵のことを指しているのではないでしょうか。その号では、前年アポロ11号による月面着陸を果たしたばかりのアメリカにおける非能率の問題を特集に取り上げています。フォロンは、現代社会に於いて欠かすことの出来ない、通信、移動、輸送、情報伝達などの手段の能率が下がり機能しなくなる様を、現代のピラミッド、死の象徴としての都市と同じ石化した図像によって示し、便利さを追い求めた附けが、現代人の生活全体lに重く圧し掛かってくるという悲劇的状況を描いているのですが、それは、けっして悲劇自体を煽り立てるためのものではなく、現代人のおかれた不条理な運命を見つめるフォロンの眼差しに他なりません。
1971年12月から翌72年2月にかけて、パリ装飾美術館で開催されたフォロンの回顧展には、水彩画、デッサン、版画、ポスターとともに、タイム誌やザ・ニューヨーカー誌の表紙絵も出品されています。展覧会はその後、ベルギーとイタリアの美術館を巡回しています。