フォロンのポスター 「VENCE 73」 |
1973年、ロシア系イスラエル人を両親に持つヴァイオリン奏者、イヴリー・ギトリス(Ivry Gitlis)による企画、監督のもと、南フランスのヴァンスで開催された音楽祭「VENCE 73:RENCONTRES INTERNATIONALES DE MUSIQUE」の告知用に制作されたシルクスクリーン・ポスターです。この音楽祭はその後も継続して行われ、紙の大きさ、配色、タイポグラフィーに変更を加えたものが作られており、いずれのポスターも、印刷と出版は、パリのEditions MARQUETが手掛けています。
このポスターの依頼者はイヴリ-・ギトリス自身で、楽器型の頭部を持ち、繊細な弓使いで自らを奏でる姿は、この音楽家のメタファーとして提示されているとともに、音楽家と彼のアトリビューションである楽器を、広義の「楽器を演奏している音楽家」という視覚言語機能に変容させ、見るものが一様に、音楽という共通認識を得られるようにデザインされている。
宵に行われる演奏会を伝えるための工夫も忘れてはならない。彩度の低い茶系色で、モチーフを囲むフレームの役目をはたしている部分は舞台に見立てられ、暮れていく紺青の空の下、演奏する人物の頭部と舞台の袖には照明が当たり、平面的な画面に空間の意識を持たせながら、時刻、時間の流れ、会場の場所や設定までを読み取れる視覚情報を盛り込んでいる。特筆すべき点は、フォロンが、このポスターのハイライト部分(タイポグラフィー、手、目、弦の留め金)に、白色(白は無彩色であると同時に光を表わす)を使っているところである。それは、先に挙げた情報を損なうことなく、見る側の視点をそこに集めるという重要な役割を演じている。
そうして、ポスターの構造の中に図像の要素が拡がり、両者を分けていた境界が失われる。これこそ、フォロンが意図するもので、告知を目的とするポスターの構造と図像が見事に調和した作品と言えるでしょう。このモチーフが気に入ったらしく、フォロンはその後、同系作品を3種類(ポスター2点と銅板画1点)制作しています。