フォロンのポスター「FIEST 86」 |
第二回国際版画見本市「FIEST 86」は1986年、フランス革命時には断頭台に送られる囚人を入れる牢獄として使われたLa Concielgerieを会場に開催されました。その宣伝用のポスターには同年出版さればかりのフォロンのシルクスクリーン版画集「Je vous ecris(I’m writing you)」の中のイメージが使われています。版画集は、フォロンが訪れた場所から手紙を書くという趣旨のもと企画され、フォロン自身が撮影した(?)写真画像を画面に取り込んだシルクスクリーン版画8点から成っています。ポスターに使われたのは「Je vous ecris du Mont Fuji(富士山からあなたに手紙をかいています)」という作品で、夜明け前の空が赤紫色に変わり始めてきた頃でしょうか、空以外はまだ夜の闇に潜んでいる中、画面左下から相模湾の海岸線に沿って走る東名高速を走る車のライトが川の流れのように、画面の中程にシルエットで浮かぶ富士山へ向かって、見る側の視線を導いていきます。その幻想的な光景は、古より日本を見守って来た霊峰富士を源流とする川の流れ(=歴史)を表わしているようにも見えます。フォロンは自らを、異国(=異星)からの訪問者として、高速道路の街灯を触覚のような感覚器官を持つ“エイリアン”のようなキャラクターに仕立てています。日本人なら特別の関心を寄せることもない、高速道路という今様の街道と遠景に富士山を配した構図に、フォロンは広重や北斎の浮世絵版画の中に描かれた日本の姿をオーバーラップさせていたのかもしれません。そこで、この景色をバックに記念写真を一枚、といった感じでしょうか。バブル景気が始まろうとしていた不思議の国、日本を“エイリアン”として訪れたフォロン。その彼が眺め、作品化した、変わらぬ富士と現代版東海道は、彼の国の人たちにはどう映ったのでしょうか。
ポスターと同時に、FIESTという版画の王国を訪れた“異邦人”であることを証明する記念のバッジが、この“エイリアン”風のキャラクターを使って作られています。エナメル七宝もどきの、なんてこともない作りですが、バッチには男の子(?)に変身作用をもたらす魔法の力があり、景品に貰ったブリキのバッチを付けるとチョッピリ自分が違って見えると思っていた子供の頃なら、間違い無く宝物になっていた筈です。